一年で最も夜が長く、寒さが身に染みる冬至の頃。山々に囲まれた伊那谷は、冷たく澄んだ空気に包まれ、星々が最も美しく輝く特別な場所となります。
そんな冬の情景を切り絵で表現しました。作品の主人公は、列車が通り過ぎた後の静寂の中、踏切を渡る姉と弟。ガタンゴトンという余韻が消え、深い闇が戻った瞬間にふと見上げた東の空には、オリオン座をはじめとする冬の星たちが力強く昇り始めています。
吐く息の白さや、星々の瞬きまで伝わるような、静かで温かい冬のワンシーンを切り取りたいと制作しました。

冬の星が照らす帰り道
……飯島町 七久保駅北の踏切……
ガタン、ゴトン。
遮断機が上がり、小学生の男の子と高校生の姉が並んで踏切を渡り始めました。昼が最も短い冬至の頃とあって、駅に姉を迎えに来た帰り道はすでに空が漆黒に染まり始めています。冬の澄んだ空気が凍てつき、東の空には宝石を散りばめたような冬の星々が昇ってきています。
「見て!星がきれい」
弟が思わず声を上げると、姉は柔らかな笑みを浮かべて夜空を見上げました。
「ほんとうだ。すごいね、今夜は」
姉は弟に見えるように指差しながら、
「あの空の真ん中に横に並んだ三ツ星があるでしょう」
弟は目を凝らして頷きます。
「その周りに明るい星が四つあって、砂時計のような形をしているのが冬の星座で有名なオリオン座なんだよ」
「オリオン座?」
「オリオンは狩りをする人だったんだけど、サソリに刺されて死んでしまったんだって。そんなことがあってか、さそり座が西に沈むとやっと東から昇ってきて、今度はさそり座が昇ってくる頃には西の空に慌てて隠れてしまうんだってよ」
「そうなの。お姉ちゃん星博士だね」
「星の話をいろいろ聞いたんだけど、この話だけは面白くて覚えているんだよ」
弟は少し考え込むように空を見つめた後、つぶやきました。
「なんかオリオンて、俺に似ているな」
「どうして?」
「お母さんに怒られた時、俺は絶対に顔を合わせないようにしようと思うもん。お母さんがいるところへは行かないように、こっそり隠れるから」
姉はくすっと笑い、弟の頭を撫でました。
澄んだ夜空の下、冬の星座の物語を分かち合いながら二人は家路を急ぎました。頭上を飾る無数の星の光が、仲睦まじい姉弟の帰り道をそっと見守っているようでした。