伊那市のやきもち踊りは、羽織袴姿の人々が神社で輪になり、足を高く上げて飛び跳ねる楽しい伝統踊りです。踊りの合間にはどぶろくや鮎の串焼きを楽しみ、和やかな雰囲気に包まれます。最後は踊り手が一斉に鳥居の外へ駆け出し、厄を持つ人を決めるユーモラスな場面も。満開の桜の下、地域の温かさと賑わいを感じられるお祭りです。そんなやきもち踊りを切り絵で表現したいと1年前にお祭りの様子を取材し今年のお祭りに合わせて作品を作りました。




やきもち踊り
……伊那市 山寺……
春の陽光が降り注ぐ伊那市山寺の白山社・八幡社合殿。そこで繰り広げられるのは、奇祭として名高い「やきもち踊り」です。羽織袴に身を包んだ男たちが神社の境内で輪になり、独特の節回しの歌に合わせて跳ねるように舞うその足取りはどこかユーモラスで、見ているこちらまで思わず笑みがこぼれます。
しかし祭りの雰囲気が一変する瞬間が訪れます。踊りの終盤に歌の調子が変わり、終わりを告げる掛け声が響くと、それまで和やかに踊っていた男たちの表情が一瞬にして真剣そのものに変わるのです。「逃げ遅れると疫病にかかる」という言い伝えがあるため、彼らは我先にと鳥居の外へ猛ダッシュで逃げ出します。酔いが回っている者もいるのでしょう。足元がおぼつかないながらも必死に走る姿は、先ほどの楽しい踊りとのギャップも相まって、なんとも言えない面白さを醸し出します。観客からは笑いや歓声が起こるのですが、当の男たちは真剣そのもの。その表情と逃げるという行為のコミカルさが絶妙に混ざり合い、この祭りの最大の魅力となっているようです。
この「やきもち踊り」は、鎌倉時代末期から続く古い例祭と伝えられています。名前の由来には諸説あり、「焼餅がはらんで」という歌詞や、最後に残った者が「厄持ち」になるからとも言われています。祭りの当日、男たちは神前で当屋の引き継ぎを行った後、酒宴を楽しみ、十分に酒が回った頃に踊りが始まります。前踊り、中踊り、後踊りの三回に分けて踊られ、最後の後踊りが終わるやいなや、あの必死の逃走劇が繰り広げられるのです。
この奇妙な祭りには、古くからの言い伝えとそれを大切に守り続ける人々の姿、そしてその様子がもたらすユーモラスな光景が凝縮されています。一度見たら忘れられない、伊那の地に根付いた独特の文化を感じさせられるお祭りです。
