一面の銀世界に赤い残り柿が映える切り絵を思い描きたいと制作に取り掛かりました。まず、柿の実が残る柿の木を探しに各地に取材へ出かけました。次に雪の降るのを待っていたのですが、今シーズンは全国各地では雪のニュースがありながらここ伊那谷では12月に一回降ったくらいで、雪の少ない時期を過ごしました。そのうちに残り柿も取り鳥に食べつくされたり落ちてしまったりで思うような取材ができませんでした。

先日ようやく雪が降り、私は柿の木に残ったわずかな雪と、以前取材した残り柿の記憶を頼りに、切り絵の構図を練りました。
切り絵では、雪を纏った柿の木に、小さな野鳥がとまっている様子を表現しました。野鳥は、寒さに負けじと、赤い実にくちばしを伸ばしています。そして、木の下には、学校帰りの小学生が、その光景を興味津々に見上げている姿を配置しました。雪の白と柿の赤、そして野鳥の色と小学生の温かい色が、鮮やかなコントラストを生み出すように、丁寧にパーツを切り抜いていきます。細かな雪の表現や、野鳥の羽の質感にもこだわり、心を込めて制作しました。

残り柿
雪が静かに降り続く山里の道。一面の銀世界が広がる中、色彩を失った風景の中に、ひときわ目を引く朱色の残り柿が浮かび上がっていました。
その静寂を破るように一羽のヒヨドリが飛来し、すぐさま柿の実をつつき始めました。冬場の野鳥たちには、こうした残り柿は貴重な食料源です。そのヒヨドリを気にしながら、さらに小さなメジロも姿を現し、柿に顔を埋めるようにして食べ始めました。その小柄な体をキビキビと動かしながら、熱心に実をついばんでいます。その愛らしい姿に思わず笑みがこぼれます。 するとシジュウカラも飛んできて、この即席の野鳥のレストランに加わりました。
雪の中で鮮やかに輝く柿の実と、それを求めて集まる野鳥たちの姿は、厳しい冬の中にも生命の営みが息づいていることを感じさせてくれます。そんな光景を、学校帰りの小学生が見つけました。
「アッ、あれ見て!」
と一人の子が友達に声をかけると、子ども達は寒さに体を丸めながらも足を止めて見入っています。
「しっかり食べなよ」
と声をかけました。その声には、厳しい冬を乗り越えようとする小さな生き物たちへの温かな思いやりが込められているようでした。
「さようなら。またね」
と言葉を残して、小学生たちは再び家路に向かって駆け出していきました。彼らの後ろ姿が雪の中に消えていく中、野鳥たちは嬉しそうに柿に群がっていました。