師走が訪れましたが、12月の新聞掲載用の作品制作がなかなか決まらずにいましたが、今回は「除夜の鐘」をテーマに選び、取材のため駒ヶ根市の名刹、光前寺を訪れることにしました。 寒冷な12月の平日、光前寺に足を運ぶと、雪がうっすらと残る境内が目に入りました。中央アルプスの麓に位置するこの寺院は、標高の高さを感じさせる厳かな雰囲気に包まれていました。



訪れる人は少ないかと予想していましたが、熱心にお参りする方々の姿が見られ、帰り際には観光バスも到着するなど、さすがは光前寺だと感じました。 釣鐘堂に向かい、構図を考えながら写真撮影とスケッチを行いました。実際の除夜の鐘を撞く様子は見られませんでしたが、以前の訪問時の記憶を頼りに、大晦日の夜の情景を想像しました。寒さの中にも威厳ある雰囲気に包まれ、訪れる人々が自然と手を合わせてお祈りしたくなるような、そんな光景を切り絵で表現したいと思いました。
作品では、夜の静寂の中で照明に照らされた鐘と、その前でお祈りする家族の姿を描くことにしました。夜のお堂や人の表情、細かな木造の柱、背景の闇と雪や木々の枝など、繊細な部分の切り抜きに苦心しましたが、なんとか完成させることができました。
光前寺の荘厳な雰囲気と、年の瀬の祈りの心を込めたものが感じられたる作品になっていたら嬉しいと思っています。

除夜の鐘
……駒ケ根市 光前寺……
中央アルプスの麓に位置する名刹「光前寺」。大晦日の夜に除夜の鐘を撞きに訪れると、寒さと闇の中、小雪が舞う幻想的な風景が広がっていました。 到着するとすでに多くの人が並んでいて、前には二人の子どもを連れた家族がいました。下の子が興奮した様子で話しかけるのが聞こえてきました。
「ねえ、お父さん、今年は起きていられてよかった!」
「そうだね。去年までは寝ていてお留守番だったもんね。今年は家族みんなで鐘を撞けるよ」
父親が微笑みながら応えます。
列が進むにつれ、周囲の雰囲気が徐々に静まっていきます。鐘を撞く瞬間を待つ緊張感が高まる中、お寺の僧侶から108の鐘を撞く家族に福笹が渡され、子ども達は嬉しそうに受け取ってペコリと頭を下げました。
ついにその家族の番が来ました。子ども達も持てるようにと父親が綱を引き下げ、家族全員で力を込めて鐘を撞きます。 静寂を破る鐘の音が、一年の煩悩を清めるかのように響き渡ります。家族全員が真剣な表情で新年の無事を祈っている様子が印象的でした。
「お母さん、願い事叶うかな?」
「きっと叶うわ。みんなで頑張ろうね」
母親の優しい言葉に、子ども達は満足気に頷きました。 家族の絆を深め、新年への希望を育む特別な時間です。
参拝者一人一人がそれぞれの思いを胸に刻みながら、新しい年の幕開けを迎えていました。 帰り道、参道の灯りに照らされた木々や建物が、より一層幻想的な雰囲気を醸し出していました。この静かな夜に、新たな一年への期待と決意が、静かにしかし確かに芽生えているように感じました。