今年の紅葉は例年より遅れましたが、伊那谷では11月中旬から下旬にかけて各地で美しい紅葉が見られました。この季節の魅力を切り絵で表現しようと、箕輪ダムのもみじ湖と富県小学校の大イチョウを題材に選びました。もみじ湖では、約1万本のモミジが湖畔を彩り、夜にはライトアップされたもみじのトンネルの幻想的な風景が広がります。一方、富県小学校の大イチョウは、校庭の南にどっしりと立ち、黄金色に染まる様子が印象的です。この2つの紅葉の風景を、繊細な切り絵の技法で表現することで、伊那谷の秋の美しさを留めたいと思いました。

もみじのトンネル
……箕輪町 もみじ湖……
夕闇が落ちる頃、もみじのトンネルは昼間の鮮やかな紅葉とは一変し、ライトアップされて幻想的な光景へと姿を変えます。頭上に広がる紅葉の天蓋が柔らかい光に照らされ、オレンジや深紅の色彩を美しく浮かび上がらせて、トンネルの入り口に立つとまるで別世界に足を踏み入れたかのような感覚に包まれます。
トンネルを進む子ども連れの家族の姿が、この幻想的な風景に温かみを添えていました。小さな子どもは目を輝かせ、両親の手を引っ張りながら前へ前へと進みます。
「わあ、きれい!」
「お母さん、見て!」
歓声が静寂を心地よく破ります。足を止めては写真を撮り、また歩を進めます。光に照らされたもみじの葉がそよ風に揺れて、影絵のように揺らめきます。時折落ち葉を踏む軽い音が聞こえ、秋の香りが鼻をくすぐります。
箕輪町のもみじ湖は、約一万本のもみじが湖畔を彩る人気の紅葉スポットです。毎年十月下旬から十一月上旬にかけて開催される「もみじ湖紅葉祭り」では、「もみじのトンネル」周辺がライトアップされます。夜間のライトアップは十八時から二十一時まで行われて、昼間とは異なる幻想的な風景を楽しむことができます。
1992年のダム建設に伴い移住を余儀なくされた住民が、「故郷が紅葉で美しく、訪れた人の憩いの場になるように」と願ってもみじの苗木を寄付しました。その後、地域の人々が十年かけて植樹し、三十年以上の歳月を経てこのような名所となりました。このもみじ湖の美しい景観は、こうした先人たちの想いと努力によって生み出されました。
もみじの美しさに心和む人々の姿に、先人たちの想いが今に伝わっていることを感じました。
イチョウ
……伊那市富県小学校 校庭……

校庭に佇む大きな大きなイチョウの木が、秋の深まりと共に黄金色に染まりました。透き通るような青空の下、イチョウの堂々とした姿は何十年もの間、多くの子ども達を見守り続けてきたのでしょう。
風が吹くたびイチョウの葉がひらひらと舞い落ち、一面に黄色い絨毯を広げていきます。休み時間になって子ども達がこの自然の遊び場へと駆け出してきました。
「わぁ、きれい」
子ども達の声が響き渡ります。小さな手を空に伸ばし、舞い落ちる葉っぱをキャッチしようとする子、黄色い絨毯の上を駆け回る子、落ち葉を両手いっぱいに集めては高く放り投げる子。その瞬間、再び強い風が吹き抜けイチョウのシャワーが降り注ぎます。
「すご~い」
興奮した声が上がり、子供たちは大喜びで葉っぱの中に飛び込みます。黄色の葉に埋もれながら、笑顔いっぱいの子ども達。陽光に照らされた落ち葉はキラキラと輝いています。 風は冷たいものの澄んだ空気と暖かな日差しが、この秋晴れのひと時を一層心地よいものにしています。
イチョウの木の下で遊ぶ子ども達の姿を見ていると、季節の移ろいと共に成長していく彼らの姿が重なって見えます。やがてチャイムが鳴り、子ども達は名残惜しそうに教室へと戻っていきした。校庭に残された黄金色の絨毯は、次の休み時間まで静かに子ども達を待っているかのようです。